「老後資金は2,000万円不足する」という話は聞いたことがあるかもしれません。しかし、この数字はすべての人に当てはまる訳ではなく、実際にどれくらい必要なのかは人によって異なります。
そのため、老後資金について考える際に重要なのは、「平均データ」を信じるのではなく、自分のライフスタイルに合ったシミュレーションを行うことです。 ありがたいことに、公的年金の試算や老後の生活費の目安を知る方法はたくさんあります。
そこで今回は、老後資金をどのように計算すればよいのか、その具体的な方法を解説します。
年金の受給額を確認しよう
老後の生活を考えるために、まず把握すべきは「公的年金の受給額」です。 公的年金制度には、国民年金(基礎年金)と厚生年金などがあり、加入状況によって受給金額が違います。
現在の公的年金の受給額を知るためには、「ねんきん定期便」を確認するのが最も簡単な方法です。 自宅に送られてくるこの通知には、これまでの年金加入実績と、将来確実にもらえる年金額が記載されています。 また、日本年金機構の「ねんきんネット」に登録すれば、将来のシミュレーションも可能です。また、マイナポータルからも確認できます。
厚生年金の受給額の目安はどうか?というデータはあります。ざっくりの数字であるとご了承ください。厚生年金額は平均年収と加入期間で異なります。納める厚生年金保険料が異なるからです。
加入期間38年、国民年金含む月額の受給額(例)
平均年収350万円・・・約12、4万円
平均年収450万円・・・約14.2万円
平均年収550万円・・・約15,9万円
また、厚生労働省年金局数理課から「公的年金受給者に関する分析」が出ていまして、65歳以上の年金受給額(月額)の平均を見ると、男性15.9万円、女性9.6万円となっています。
これは、あくまでもデータとして出ている数字ですから、ご自身のねんきん定期便、マイナポータルなどで確認する必要があります。
老後に必要な生活費を見積もる
次に、老後の生活費がどれくらいかかるのかを考えます。 総務省の「家計調査」によると、夫婦2人の無職世帯の平均的な支出は約27万円です。 一方、単身一人の場合は約15万円とされています。
生活費を考える際に重要なのは、固定費と変動費を分けて考えることです。 固定費には、住居費(住宅ローン・家賃・修繕費)、光熱費、通信費、保険料などが含まれます。変動費としては、食事、交際費、趣味・娯楽費、医療費などがあります。
特に、住居費の影響は大きく、持ち家の場合はローン完済後であれば住居費が抑えられますが、賃貸の場合は一生家賃を払い続ける必要があります。また、老後は医療費や介護費が増える可能性もあり、これらを考慮した資金が必要です。
老後の生活費を試算する際は、「現在の生活費 × 老後の年数」で大まかな金額を算出し、そこから年金収入を差し出すと、不足額が明確になります。次のステップでは、具体的な不足額を計算し、対策を考えます。
年金と老後の生活費を比較、不足額を計算
年金の受給額と老後の生活費がわかったら、それを比較し、老後の資金が足りないかどうかを計算してみましょう。
老後の生活費(月額) - 年金受給額(月額) = 毎月の不足額
例えば、夫婦2人で老後の生活費を月30万円と仮定し、厚生年金の受給額が月26万円であれば、不足額は月4万円、年間で48万円になります。30年間の老後の生活費を考えると、合計で約1440万円の不足が発生します。
単身の場合、生活費が月15万円で、国民年金のみの受給額が月6.8万円だと、不足額は月8.2万円。年間約98万円、30年間で約2,940万円が不足します。
この不足額をどう補うか資産形成のポイントです。主な方法として、以下のような対策があります。
- iDeCoやNISAを活用した資産形成(長期投資による老後資金の確保)
- 退職金や企業年金の活用(計画的に取り込む)
- 生活費の見直し(支出を抑える、貯蓄を増やす)
- セカンドキャリアを考える(老後も働く選択肢を持つ)
このように、老後資金のシミュレーションをすることで、自分に必要な金額とその対策が明確になります。次は、具体的なシミュレーション事例を紹介します
ケーススタディ:老後資金シミュレーションの具体例
ここでは、3つの異なるケースをもとに、老後資金のシミュレーションを行い、それぞれの対策を考えてみましょう。
ケース1:会社員夫婦(共働き・厚生年金あり)
プロフィール
- 年齢:現在50歳(夫婦共に)
- 稼ぎ:夫 600万円、妻 400万円(どちらも会社員)
- 年金受給額:夫 14万円/月、妻 10万円/月(合計24万円)
- 退職金:夫 1,000万円、妻 500万円
- 老後の住居:持ち家(ローン完了済み)
- 老後の希望生活費:月30万円
不足額の計算
- 生活費30万円 -年金受給額24万円 =月6万円不足
- 年間72万円の不足 × 30年間 =約2160万円の不足
対策
- 退職金を計画的に活用(1,500万円の退職金と貯蓄で、30年間の不足額を補なう)
- NISA・iDeCoの活用(現在から65歳までの15年間、毎月3万円を年利4%で運用した場合、約700万円の資産形成が可能)
- 生活費の見直し(年金生活に合わせて支出を調整)
💡このケースでは、大きな問題はないこと、インフレや医療費の上昇を考慮し、資産運用を取り入れることより安心できる。
ケース2:自営業者(国民年金のみ・貯蓄はあるが不安)
プロフィール
- 年齢:現在55歳(単身)
- 給料:500万円(自営業)
- 年金受給額:6.8万円/月(国民年金満額)
- 貯蓄額:2,000万円
- 老後の住居:賃貸(家賃7万円)
- 老後の希望生活費:月20万円
不足額の計算
- 生活費20万円 -年金受給額6.8万円 = 約13.2万円不足
- 年間158.4万円×30年間=約4752万円の不足
対策
- iDeCoの活用(65歳まで月額6.8万円で5%運用を目指すと、約1800万円の資産が形成できる)
- NISAの活用(月額5万円で5%運用を目指すと、15年間で約1300万円の資産が形成できる)
- 自営業をいつまで継続することが可能かを検討する(収入の確保)
- 生活費の調整が必要
💡iDeCo、NISAによる投資に頼るだけでは心もとない部分があるので、自営業のメリットを最大限に活かして長く働くこと、生活費の見直しをすることで、投資とのバランスを取るようにする。
ケース3:60歳自営業の夫+専業主婦の妻(年金受給額が少ない)
プロフィール
- 年齢:現在60歳(夫)、58歳(妻)
- 職業:夫は自営業で、60歳を機に廃業予定。妻は専業主婦。
- 年金受給額:夫5万円/月(国民年金のみ)、妻5万円/月(国民年金のみ)
- 貯蓄額:1,000万円
- 退職金:なし
- 老後の住居:持ち家(築30年、修繕費がかかる可能性あり)
- 老後の希望生活費:月20万円
不足額の計算
- 生活費20万円 -年金受給額10万円(夫5万円+妻5万円) =月10万円不足
- 年間の不足額:120万円
- 30年間での不足額:3600万円
対策
- 収入の確保(自営業を継続する、パート・アルバイトなど)
- 生活費の見直し(固定費の削減で、生活費を抑える)
- NISAを始める(収入が確保できる期間は投資をする)
- 貯蓄の活用(1000万円を30年間で活用する視点で、資産寿命を延命する投資の検討)
💡このケースでは、「働く期間を延ばす」「生活費を見直す(削減)」「貯蓄を有効に活用」の3つの計画が重要です。貯蓄を投資に回す際は慎重にする必要があります。「どこまで増やせるか?」ではなく「どれだけ長持ちさせるか?」という視点で投資対象を選択します。リスクを取り過ぎないよう心がけます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?老後資金はどこまで準備すれば安心なのか、分かりにくいですよね。あればあるほど安心なのは理解できますが、準備する期間でもある現在の生活を犠牲にすることはできません。
ただ、調査やデータに振り回されず、あなた自身、あなたのご家庭のケースを考えることがポイントです。隣の家は2000万円不足するかもしれませんが、私はそんなに必要ないということもあります。逆に3000万円必要となるかもしれません。そこは、先ほど紹介した、あなたの年金受給額の確認、老後生活費の予想をすることが重要です。
不足するかもしれない・・・と判明した時は、今すぐ準備にとりかかることにします。貯蓄を投資に回す、毎月つみたて投資をすることになりそうです。生活のスタイルをダウンサイジングすることも検討します
Wrote this article この記事を書いた人
福田 智司
▶独立系ファイナンシャルプランナーとして、相談業務、セミナー講師などで活動しています。 ▶FBCラジオ ラジタス 第一木曜日 10:50~ 「FPふくちゃんのお金に関するエトセトラ」レギュラー出演中 福井で唯一?のラジオFPです ▶FPでIFAというポジションを活かした相談が得意 節約だけが家計見直しじゃない!を念頭に置いた相談を心掛けています。 ▶法人向けに企業型確定拠出年金の導入サポートを推進しております