相続準備はまだ早いと思いますか?普通の家庭こそ「今」始める理由

相続準備はまだ早いと思いますか?普通の家庭こそ「今」始める理由
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「うちには財産なんてないし、相続なんて関係ない」そう思っている方が多いのではないでしょうか。
そのような状況ですから、相続の対策が必要だ!と気が付くのが手遅れになるの割合が高いと感じます。

親が元気なうちに少し話をしておけば・・・
ほんの少しだけ準備しておけば・・・
そうしていれば、争わずに済んだ相続はたくさんあります。

 今回は、普通のご家庭で実際に起きた「手遅れの事例」とともに、相続は誰の家でも起きることだと気づけるブログをお届けしたいと思います。

相続の準備が「間に合わなかった」ケース

 FP相談で、相続について話をすることがあります。相続相談を申し込みいただく場合もありますし、別の相談から話題が広がって相続にまで及ぶということもあります。

 そんななかで、「もっと早く相談ができていれば・・・」「5年前に話ができていれば・・・」と感じることが少なからずあります。そんなケースを3つお伝えしたいと思います。私の相談の実体験と、FP仲間から聞いた話があります。

ケース①:認知症が進んでしまい遺言書も家族信託も出来なかった

【背景】
 80代のお母さまが一人暮らしをしているAさんご家族。娘さんが遠方に住んでいたこともあり、気になりながらも本格的な対策は後回しにしていました。

 ある日、「最近、母の言動が少しおかしい」と感じたAさんは、念のため医師の診察を受けさせると、軽度認知障害から初期の認知症に進行していると診断されました。

【取ろうとした対策】
Aさんは「このままでは将来困る」と感じ、財産管理や将来の介護費用のことを見越して、家族信託の契約を検討しました。また、母の意思がしっかりしているうちに遺言書の作成も考えました。

【問題点】
ところが、医師の診断書には「契約など重要な判断は難しい可能性がある」との文言があり、公証人との面談でも本人の判断力が不十分と判断され、信託契約も遺言書作成も見送られることになりました。

【結果】
 その後、お母さまの症状はゆるやかに進行し、通帳やキャッシュカードの所在も曖昧になってしまいます。子どもたちは、財産の管理がままならず、成年後見人制度を利用せざるを得ない状況となりました。

 しかし、成年後見制度は資金移動などに制限が多く、資産の柔軟な活用や贈与、相続対策はできません。「もっと早く動いていれば・・・」という後悔が残る結果となりました。

ケース②:兄弟姉妹が感情的に対立し、話し合いが成立しなかった

【背景】
 Bさんは3人兄弟で、母親が亡くなったことで相続が発生しました。しかし、母は遺言書を残しておらず、生前の希望も明確に伝えていなかったため、何をどう分けるか、すべての話し合いがゼロからのスタートとなりました。

【問題点】
 母親の晩年は、同居していた長男が介護を担っていたため相続する遺産を多く受け取る権利があると主張しますが、他の兄弟は「平等に分けるべき」と主張します。

 さらに、「あのとき勝手に家をリフォームしたのはどういうことだ」「母のお金を無理やり使わせたのではないか」と疑心暗鬼の連鎖が生まれ、冷静な話し合いは不可能になりました。

【本来取れた対策】
 もし母親が生前に「自分の気持ち」を伝えたり、公正証書遺言を残していたなら、遺産分割の方針がはっきりし、兄弟の衝突は避けられたかもしれません。

【結果】
 結局、調停に持ち込まれ、解決までに2年超と弁護士費用が発生することになりました。その過程で兄弟の関係は悪化することになり、「相続が終わった後に家族が壊れた」という事態になってしまいました。

ケース③:不動産を共有名義で相続し、売却も運用もできずに塩漬けに

【背景】
 Cさんの父が亡くなり、残された主な資産は自宅と古いアパート(賃貸用)でした。特にアパートは老朽化が進み、入居率も悪化しており、リフォームするか売却するかを検討する必要があるような物件でした。。

【相続時の対応】
 不動産は意外と評価が高い、現金が少ないという状況で、分割することが難しく、兄弟3人で不動産を共有名義で相続することになりました。売却かどうかの判断は先送りとなりました。

【問題点】
 数年後に売却を進めようとしたとき、一人が「まだ売りたくない」と拒否する事態になりました。共有名義の不動産は全員の同意がなければ売却できません。売却しなくとも老朽化が進んでおり、リフォームするにも費用負担の問題があり、誰も動けない状態に陥ります。

【本来取れた対策】
 生前に不動産の扱いについて話し合い、売却前提の遺言書を残すか、特定の相続人に不動産を集中相続させて代償金で調整する方法もありました。

【結果】
 築古アパートは空室率が上がり、収益も減少、手放すに手放せない「負の資産」という状態になっています。子ども世代にとっては、ありがたくない相続となってしまいました。

これらの事例は、早めの相談で、早めに動くことができていれば、対策、準備ができていたと思います。

普通の家庭こそ、早めの相続準備が必要です

「相続の準備なんて、お金持ちの話でしょ」
「うちは財産っていっても自宅くらいだし、わざわざ対策しなくても・・・」

実は、こうした「普通のご家庭」にこそ、相続の準備が重要なのです。理由は大きく3つあります。

① 相続税がかからなくても「争族」は起こる

 相続と聞くと「相続税の対象になるかどうか」が話題になりますが、実際にトラブルが起きる多くの家庭は非課税のケースです。

たとえば、

  • 自宅不動産と少額の預金しかない
  • 自宅不動産を相続する人と現金を受け取る人で不公平感がある
  • 介護や仕送りの貢献度、負担感に対する不満

こうした「感情」の問題が噴き出すのは、財産が限られているからこそ起きるのです。

② 財産の分け方が難しい「自宅」がある

 特に多いのが、資産のほとんどが自宅不動産であるご家庭です。誰かが住み続けたい一方で、他の相続人は「自分の取り分が欲しい」と主張する場合、自宅を売却し現金化して分けるか、自宅に住みたい相続人が他の相続人に相当額を代償金として支払う資金を用意するしかありません。

しかし現実には、

  • 売るに売れない立地である
  • 代償金を支払える余裕がない
  • 共有名義にして塩漬けになる

といった問題が生じ、親亡き後に兄弟姉妹の関係が悪化してしまうケースも少なくありません。

③ 家族信託や遺言など、「早くするべき対策」がある

 認知症を発症すると判断能力低下で契約行為や法律行為ができなくなるため、家族信託契約や遺言書作成は難しくなります。高齢の親がいて、「最近ちょっと物忘れが・・・」という状態なら、対策するには今がギリギリのタイミングかもしれません。

準備をしていれば、

  • 自宅を誰に相続するか
  • 残った財産の分け方
  • 財産管理ができなくなったときの体制

 こうしたことを親が元気なうちに決めておくことができます。信託契約をしておくと、相続発生までの資産管理ができるようになるので、認知症が発症したとしても対応できます。その結果、子どもたちは安心して親の老後を支えることができ、相続時も冷静に行動できます。

「うちは普通の家庭」だからこそ、今準備してほしい

 相続の準備は「お金がある人だけがやること」ではありません。むしろ、財産に余裕がないからこそ、揉めないように整えておくことがとても大切です。

遺産分割でもめると、

  • 家庭裁判所での調停に何年もかかる
  • 弁護士費用がかかる
  • 兄弟姉妹の縁が切れる

こうした代償を払うことになります。

「元気なうちにやっておいてよかったね」と、将来そんなふうに笑って言えるように早めに相続について話をしておいた方が良いと思います。普通の家庭こそ、「今」から考える価値があります。

なぜ「今」始めるべきなのか?

 相続対策には「早すぎる」はありません。なぜなら、準備をするうえで重要なのは

  • 親がまだ元気で判断能力があること
  • 家族同士の関係が良好であること
  • 法的な手続きに余裕をもって臨めること

つまり、「何も起こっていない今」こそが、相続相談、対策ができるタイミングなのです。

5年前にできた「あの選択肢」が、今はもう使えないかもしれない

 たとえば、判断能力があるうちに活用できる対策として「家族信託」「遺言書」があります。家族信託では、親の財産を親のために、子どもが管理・運用できる仕組みを作れます。遺言書では、親の想いを伝えることができます。

 しかし、認知症の診断が出てしまった後では、もう使えません。これは医師の診断や法律上の要件があるため、どうにもならないのです。

「遺言書を書いてもらおうと思ってたのに、もう書けない」
「生前贈与を進めたかったけど、親がもう意思表示できない」

 相続の相談をしていると認知症が発症していたり、署名ができない状態であったり、「何もできない・・・」という経験があります。仕方がないと思う面もありますが、その人と私は10年前から知っているような場合だと、「できることがあった」のにと思います。

相続対策の第一歩は「話すこと」から

 相続の準備に特別な知識は不要です。まずは、以下のようなステップで進めてみましょう。

① 家族でチラッと話をしてみる

「相続って、まだまだ先の話だけど…」
そんな入りで十分です。話すきっかけを作ることが第一歩となります。しっかりとした相談でなくとも、家族が集まるようなタイミングで、チラッと話題にするという程度から始めましょう。

② 財産の棚卸しをしてみる

 預貯金や不動産、有価証券など、「何がどれくらいあるのか」を確認しましょう。思ったよりあるかもしれませんし、思っているほどないかもしれません。ネット証券、ネットバンクもありますから、IDとパスワードの管理についても、確認しておきたいところです。

③ もしものときの想いを聞いてみる

「この家は誰に残したい?」
「財産はどのように分けたい?」
このような質問を通じて、親の想いを知ることができれば、遺言や信託など具体的な対策に進みやすくなります。

遺言書を書くための質問でなく、雑談レベルから話をするのもいいと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

 「ウチは関係ないな~」と思っているご家庭ほど、相続の準備ができないままトラブルとなる事例があります。相続の準備、対策は、「親が元気なうち」にしかできません。親の判断能力があるうちに相談することで、ほとんどの問題を防ぐことができると思います。

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Wrote this article この記事を書いた人

福田 智司

▶独立系ファイナンシャルプランナーとして、相談業務、セミナー講師などで活動しています。 ▶FBCラジオ ラジタス 第一木曜日 10:50~ 「FPふくちゃんのお金に関するエトセトラ」レギュラー出演中 福井で唯一?のラジオFPです ▶FPでIFAというポジションを活かした相談が得意 節約だけが家計見直しじゃない!を念頭に置いた相談を心掛けています。 ▶法人向けに企業型確定拠出年金の導入サポートを推進しております

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